イングレスはゲームを超えた何なのか「INGRESS UNITES KYOTO」講演内容
Shōninの翌日にイングレスについての講演がありましたので聞いてきました!
3月29日にDigital Interactive Entertainment Conference(DIEC) というデジタル・エンターテイメントについてのイベントが京都リサーチパーク内で開催されました。
幾つかのテーマ毎のプレゼンとディスカッションという形式でしたが、その中に「INGRESS UNITES KYOTO」と題してイングレスをテーマにした講演がありました。
登壇者
ジョン・ハンケさん(Product VP ナイアンティック・ラボ)
川島優志さん(ナイアンティック・ラボ)
飯田和敏さん(ゲームデザイナー/文化庁メディア芸術祭「Ingress」展示監修)
モデレータ 中村彰憲さん(立命館大学映像学部教授)
事前の告知が行き届いており、160名の定員のところ百数十名は入っていたと思います。
しかも、Shōnin参加者の挙手をする時がありましたが、半分近くが参加者でした…!
服装など(イベントTシャツ着用者多し)から聞きに来たのはほとんどがプレイヤーのように見えました。
以下、講演の内容を私のノートからまとめました。
テープ起こしではないので、飛んでいたり私の理解が違っている箇所があったらすいません。
ジョン・ハンケさんのプレゼン
(YouTubeで公開されているイングレスのビデオを見せて)
このビデオを作ったのはゲームを知らない人に説明するのが困難だから作りました。
ゲームだけど外に出たりフェリーに乗ったりします。ゲームとしてすごくユニークだと思います。
イングレスを作ったのは、親として教育の意味を込めています。
子どもにパソコンを買い与えるとゲームをしっぱなしで閉じこもるのを外に出せないかと考えました。
スマホやウェアラブルデバイスを使って、「現実の世界で」ゲームができないかと考えました。
イングレスはグーグルアースやグーグルマップの技術の上に作っています。
「世界を一つのゲーム盤にする」のはどうだろう。
そして、世界で最も面白い場所は?どこだろう。
歴史的や文化的に意味深いところをピックアップしてみたら?
歴史を学ぶ良い方法は「意外性」で、不意に出会ったものから知ると言うことは面白いし効果的です。
Shōninイベントに際して京都市長と話をしましたが、京都の歴史とゲームを組み合わせることに興奮されていました。
「京都は何千年もイングレスを待っていた」とまで。
イングレスは2012年11月にローンチして、そこから現在までのカウントで、人類はトータルで1億5千万キロメートル歩いておりこれは地球から太陽までの距離になります。
人々が外に出てプレイするようにという狙いは見事に機能しました。
時にはヘリコプターをチャーターしてポータルに行く人も出るくらいです。
また、あらゆる年代がプレイしています。家族みんなでプレイするケースも。
イングレスで健康になった人もいます。ダイエットに成功した人も。
人々を社交的にする狙いも機能して、イングレスがきっかけで結婚する人も現れました。
驚いたのはタトゥーを入れる人もいるということです。
イングレスはライフスタイルのアプリだから、他のゲームアプリとはちょっと違います。
ストーリー展開について
スマートフォンのユーザーはアプリを切り替えて使います。
そのためイングレスはアプリの中ではなくYouTubeやGoogle+などソーシャルメディアでストーリー展開をするのが良い方法だと考えました。
現在は書籍も出ています。コミックに小説と資料集が出版されています。
付記)コミックは日本語版があります。あとは原書をどうぞ。
イングレスのイベントについて
最初のカホキアのイベントでは60人が集まりました。2013年1月のことです。
その場で初めて会うような人たちです。
イベントの結果でイングレスのストーリーが分岐することにしました。
もちろんShōninでも変化があります。
実は毎週分岐していましたが大変で、今は3ヶ月に1回にしてうまくいっています。
日本での最初のイベントは東京で2013年8月のことでした。
京都での最初のイベントは1年前、2014年3月21日でした。
そして石巻でのイベントには、たくさんの人が遠くからも集まりました。
石巻のイングレスTシャツは楽天市場で売ったら、ランキング1位になるほど売れました。
そして、去年末の東京でのイベントには5000人もの人が集まりました。
プレイヤーの自主イベントもあり、国境を越えて協力することもあります。
イスラエルとレバノンの協力で、現状では互いに入国できないため第3国でポータルキーを受け渡してフィールドアートを作ったことがありました。
付記)詳しくはこちらに川島優志さんが書いています
mask303 blog: イスラエルとレバノンを結んだ「アークライト作戦」
アノマリーで発生したシャード(「大玉転がし」と言われている特別な玉をポータル間のリンクで運ぶ、協力プレイがとても大事なイベント)も国際的なコミュニケーションを発生させています。
これはとても大きな意味を持っていると思います。
イングレスの今後
これからはイングレスのシステムの上で誰でも遊べるようにしていきます。(APIが公開される予定)
その一つが「エンドゲーム」です。
川島優志さんのプレゼン
地方とのコラボレーションの可能性に関して
日本での特徴的なことですが、自治体がイングレスに取り組んでいることです。
岩手県や横須賀の例はテレビのニュースでも紹介されました。
岩手県は資料も公開しています。
岩手県 – 岩手県庁Ingress活用研究会
イングレスの観光における効果
横須賀市が行った猿島への船の半額キャンペーン
効果はというと、前年同月比505%という結果に。
実際にイングレス目当てで猿島に来る人が増えたということです。
日本でのイベントは石巻から始まりました。
震災で失われた建物などをポータルとしてスキャナー画面の中で見られるようにしました。
震災の地でゲームなんてと言われる危険性はありましたが、現地の人と話してみたら「来てくれることが一番の支援」と言われました。
石巻のプロデザイナーがデザインしたTシャツを楽天で販売したら、全商品で1位になってしまうくらい反響がありました。
石巻でイングレスをはじめた若者が、今では他の地域(女川や陸前高田など)をつなぎ始めて、一つの大きな力になりつつあります。こういう動きは世界に先駆けて日本で起きています。
イングレスを通して訪れると地域に愛着が湧いてくるようです。
「来て欲しい」はクールじゃない。それより「行ってみよう」と言われるきっかけ作りに。
飯田和敏さんのコメント
自分は女川に行ったことがあります。
石巻のカッコイイTシャツと違って手作り感溢れるTシャツがあります。
震災で生き延びた人が、たどった道と同じところを通りました。
女川はポータルの数が少ないです。駅はあるのにそこがポータルになっていません。
イングレスのイベントは今は第3のフェーズに入ってると思います。イベントは個人の思いで開くことができます。
メディア芸術祭での審査のこと
エンターテインメント部門の審査をした時にイングレスは全員一致で一位でした。
ビデオゲームが1位になるのは6年ぶりの快挙です。
実はビデオゲームは衰退の時期に入っていますが、そんな中での大賞受賞です。
自分はイングレスが本当に1位で良かったのかを検証するためにハックし続けています。
昨日のShōninイベントでもイングレスは良かった!
(XMを放出して人々に影響を及ぼす)パワーキューブは実在しますよね。
イングレスで思い出した父との記憶
(イングレスのミッションやアイテム集めで)美味しいからと友人の手引きでたまたま飛鳥山公園に行ったときのことです。
自分は父親を幼い頃に亡くしており、そこに住んでいたことがあったのですが色々なことを忘れていました。
しかし、あるポータルを見たら、小さい頃に父親と確かに住んでいて遊んでもらっていたという、封印されていた幸福な記憶が突如よみがえってきました。イングレスってやばいな…と。
これは私の個人的な出来事ですが、全てのイングレスプレーヤーにもそれが起きていると思います。
「世界をもっと愛せるようになる」それがメディア芸術祭で大賞にふさわしい作品であると。
石巻には仮面ライダーがたくさんいます。復興で石ノ森章太郎の博物館が再建されました。
横須賀の猿島には初代ショッカーの秘密基地があります。
無関係のものが結ばれることで、自分たちの人生の体験がリッチになると思います。
偶然を遊ぶということ、楽しむこと、これは人間が持っている善の力なのではないでしょうか。
イングレス誕生の背景は?
ハンケ:ARゲームを考える時にドラゴンを出してもリアリティーが無いので、XMのようなエネルギーを考えたらリアリティーがあるのではないかと。
ラテン語で入る(エンター)がイングレスです。
歴史的遺物などのポータルに魅力を感じてひきつけられるので物質エネルギーが「入って」くるので名付けました。あと、クールだから。クールだよね?(聴衆拍手)
ゲームとしては勝ち負けよりも毎日外に出て歩く・発見することを最初に考えてデザインしています。
他のGPSゲームは他のプレイヤーと激しく競争させますが、スコアを競わなくても遊べるようにしました。
美術的価値のあるポータルの存在に注目したところが大きいです。
もちろん、強いコミュニティーがあることも重要だと思っています。
世界観の構築はどのように?
川島:イングレスのデザインはシンプルです。
色も限定、形自体もシンプルを目指しています。
結果として、色々な人に使いやすくなっています。
スマホのゲームなのでなるべく軽くしなくてはならないという事情もあります。
テクスチャも使い回したりとか、1ピクセルをどう使うかファミコンみたいな制約があります。
その制約があるから化学変化で良い方に。
ハンケ:リアリティを追求して、ゲームではなく実在するプロダクトとして作りました。
飯田:NES誕生30周年で一巡した感じですね(テクスチャ使い回しとか)
イングレスはファミコンの登場くらいの衝撃です。
スマートフォンでエンジョイすることをとことん追求していると思います。
やりすぎると帯域を超えてキャリアに速度制限されてしまうのですが、そういうのも含めて意図したデザインですか?
ハンケ:意図していないけれど、面白い着眼点ですね。
最初は小さなグループでしか考えていなくて、人がこんなに集まるとは思っていなかったです。
これからのテクノロジーは人をつなげていくものになるのでは。
自分も内向的な人間なので、社交面をアシストできたら嬉しいです。
飯田:昨日は5,000人以上が集まってケンカが無いのがすごいですよね。
ハンケ:写真を見るとみんな笑っているよね。ポジティブな気分になってくれたのでは。
英雄となるプレイヤーは?
川島:イスラエルの若者とレバノンの若者が、互いの国には行けないので第3国でキーの受け渡しをして国をまたぐフィールドアートを作りました。何ヶ月も準備にかけました。
メッセージ性がある発信をイングレスを通して見えるようにできることを成し遂げたことに感動しました。
これは1年半前くらいの話です。
ハンケ:アノマリーで聞いた2人の話です。
京都の女性ですが、家から出られずに睡眠薬を飲んで寝る生活をしていましたが、イングレスで外に出るようになって仲間もできました。薬も要らなくなったそうです。
また、オーストラリアから来た女性ですが松葉杖をつき先天的に足が湾曲している方です。イングレスをモチベーションにして、これから日本で色々なものを見るそうです。自分でアドベンチャーをしようと思って来られたそうです。
僕らももっとアドベンチャーしなくちゃね。
飯田:自分は足が動かなくなるまでやってレベル16にはなれなかったがモラトリアムでイベントをできて良かったです。
足が疲れるほどやるから「満足」でハッピーになれるんだろうね。
また京都に来てくれますか?
ハンケ:また来たいです!
感想
というわけで、イングレスについて、もっと知りたい!という気持ちを充分に満足させられた密度の濃い内容でした。
この内容を百数十人だけのものにするのは勿体な過ぎるため、何とかブログ記事にしました。
長丁場だったので抜け落ちている箇所もあるかもしれませんが、少しでも皆さんに知っていただけたらと思います。
どのような思いや経緯があったのか、また追加情報が得られてイングレスがますます楽しくなりそうですね!
私を含め聞いた人の心に残ったのが飯田さんの幼い頃に亡くされたお父さんとの思い出の話です。
人間の脳は記憶を保持し続けてはいるのですが思い出す機能が衰えてくるので思い出せなくなると聞いたことがあります。
思い出すためのトリガーになるポータルも、それぞれのプレイヤーにとって、たくさんあることでしょう。
数十年後に「ああ2015年頃にハマっていたゲームでここに毎日足しげく通ったなぁ」という思い出を思い出す人も多いのではないでしょうか。
私もガーディアン金メダルをもらったポータルは記念としてずっと覚えていると思います。
あと、とんでもない強風の吹き付ける中でポータルキーが出てくるまで待った灯台とかも。
最後にハンケさんが、また京都に来たいと断言していましたので、何かあることを期待しましょう!
Shōnin Kyotoレポ
その1:
その2:
その3:
その4:
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